娘と行った小児科の待合室に流れていた知らないアニメ映画。ぼんやり見るともなく見ていたら、突然映画の中のおばあちゃんが孫のアコースティックギターを取り上げ、恐ろしい表情でそれを地面に何度も叩きつけて破壊してしまいました。
きっかけは『リメンバー・ミー』
「なんなんだこの映画は」と思い調べてみたら、パンク・ロックの映画とかではなくて、『リメンバー・ミー』というディズニー/ピクサーの映画でした。ギターを弾く自分としては一度観ておかないとと思って観てみたら、とても感動する映画で最後に主人公が弾き語りをするシーンで涙腺が決壊しました。
この映画はメキシコの「死者の日」(日本のお盆みたいなもの)がテーマで、主人公のミゲルという少年が死者の国に迷い込んで自分の先祖たちと会う話です。いちばん上ではひいひいおじいちゃん・ひいひいおばあちゃん(高祖父母)まで登場します。映画を観終わって、「そういえば自分はひいおじいちゃんの顔も名前も知らないな」と、涙でぐしゃぐしゃになった顔でふと思いました。
いつかやってみたいとずっと思っていたことのひとつに、「家系図づくり」がありました。ただ、時間もお金もかかりそうだし、必要に駆られているわけでもないということで、なかなか手を付けられずにいました。そんな私に、ミゲルがこう言うのです。
「許さなくてもいい。でも、忘れないでほしい」
これは高祖父を憎んで絶縁していた高祖母に対して、ミゲルが言う印象的なセリフです。私の場合、曾祖父より上はそもそも知らないので許すも忘れるもないのですが、ミゲルの切実な訴えになんだか背中を押されたような気がして、「よし、やるか」とようやくスイッチが入ったのでした。ありがとうミゲル。
戸籍を郵送請求
さて、まずはじめにやることは、自分の戸籍を取ることです。戸籍は本籍地の役所に請求する必要があります。本籍地がどこかわからない方は、住民票(本籍地記載のもの)を取ればわかります。
本籍地が近くの場合、直接役所に取りに行けばいいのですが、遠い場合や時間がない場合には、郵送してもらうのがおすすめです。戸籍の郵送請求の方法は、その役所のウェブサイトに載っていると思います。たとえば東京都調布市の場合、「次のものをすべて同封して、調布市役所 市民部市民課 郵送担当へお送りください」とあります。
- 郵送請求書(戸籍に関する証明書)
- 取得者の本人確認書類のコピー
- 戸籍に記載のある方と直系親族であることが確認できる資料(必要な場合のみ)
- 手数料分の定額小為替
- 返信用封筒
- 委任状(代理人の場合)
郵送請求書
基本的にはウェブサイトに用意されている記載例の通りに記載していきますが、役所の担当者の方に1回の請求でできる限り上の世代まで取得したいという思いを伝えるべく、以下の点に注意しました。
- 請求事由の欄には「先祖調査、家系図作成」と記載しました。
- 請求内容の欄には、戸籍謄本「各」1通、除籍謄本「各」1通、改製原戸籍「各」1通と記載しました。
- 筆頭者名と証明が必要な人の氏名に、「他」をつけました。
- 空いているスペースなどに、「父方・母方すべての直系尊属のもの(出生から死亡まで)」と記載しました。
これで大体はすんなり郵送してもらえましたが、「父方・母方すべての~」と記載したら「こちらの申請では受付できませんので、各ご名義で申請してください」と記載されてしまった自治体が1か所だけありました。そこだけは4回も請求しました。「また来たこの人……」と思われていたかもしれません。
郵送請求書には電話番号を記載する場所がありますが、請求範囲の確認などのため1、2回電話がかかってきました。日中も必ずつながる電話番号を記載しておいた方がよさそうです。
取得者の本人確認書類のコピー
返信用封筒のあて名と同じ住所が確認できる本人確認書類のコピーを用意します。私はマイナンバーカードのコピーを同封したような気がします。
戸籍に記載のある方と直系親族であることが確認できる資料
戸籍は本人・配偶者・直系血族である場合に取得できますが、その自治体の戸籍で親族関係が確認できない場合には、戸籍のコピーなどによりその証明をする必要があります。
手数料分の定額小為替
一般的にはほとんど馴染みのない定額小為替。郵便局の窓口で購入できます。
1回の請求で何部謄本が取れるかは、請求してみないとわかりません。余った分は返してもらえるので、とりあえず多めに(1万円分くらい)送ってみるのがいいと思います。
返信用封筒
レターパックを送る場合には切手はいりませんが、角2封筒などを送る場合には、切手を同封します。こちらも余った分は返してもらえるので、貼らずに多めに同封しておきます。
ひいひいひいひいおじいちゃんの名前を知って感動
自分の戸籍の【従前戸籍】の欄に、私の出身地である長野県松本市と筆頭者である父の氏名の記載がありました。
「松本市 戸籍 郵送」などとウェブで検索し、ウェブサイトを確認したうえで戸籍の郵送請求をします。さて、どの世代まで取得できるか。先祖が転籍していなければ、上の世代まで一気にずるずるっと取得できます。1万円分の定額小為替を同封してポストに投函しました。
数日後、どっさり書類が詰め込まれた封筒がはるばる松本市から届きました。父方の先祖は大昔からずっと松本市にいたらしく、取得できた謄本は全部で13通。送った1万円の定額小為替のうち9,450円が使われ、550円がおつりとして返ってきました。結構ぎりぎりでした。
古い戸籍の内容を頑張って読み解き、松本市以外の戸籍も同じ要領でどんどん郵送請求しました。1か月半くらいかけて、取得できるものはだいたい取得したと思います。総額28,200円+切手代。長年の夢が叶い、満足です。
結果、六世の祖(というらしいです)までさかのぼることができました。六世の祖とは、父→祖父→曾祖父→高祖父→五世の祖→六世の祖、つまりひいひいひいひいおじいちゃんです。〇〇エ門という、いかにも江戸時代といった感じの名前でした。どんな人だったんだろう。
六世の祖までいくと出生日がわかる人はなく、死亡日がわかる方が数人でしたが、五世の祖は出生日・死亡日ともにわかる人が多かったです。判明した先祖の出生日の中でいちばん古かったのは、父の母の母の父の父(五世の祖)の文化9年でした。西暦1812年、11代将軍、徳川家斉の時代のようです。200年以上前。歴史の教科書の中の世界。なんというか、皆様、生き抜いてくださってありがとうございました。
家系図をつくってみて
今回家系図を作ろうと思った目的として、これまで思ってもみなかった自分にゆかりのある場所を知ることができたらいいなというものがありました。「実は先祖はもともと〇〇県からやってきた!」とか。でも、そんな場所はありませんでした。父の先祖は江戸時代から私の出身地で暮らしていて、結婚相手も近くの市町村から嫁いできており、目新しい地名は最後まで見ることはありませんでした。この点はちょっとがっかりでしたが、より自分の故郷に愛着がもてたともいえるかもしれません。
一度にいろんな自治体に戸籍を請求したのははじめてでしたが、自治体によって対応が全然違いました。戸籍に何枚も付箋を貼って丁寧に手書きの説明を加えてくれる自治体もあれば、ただ戸籍を送るだけの自治体、前述のように筆頭者ごとに戸籍を請求し直さなければいけない自治体もありました。役所ごとの方針なのか、担当者の性格なのか。
家系図を作っていて大変だったのは、昔の女性の名前に多く使われていた変体仮名(昔のひらがな)の解読です。全然読めません。街中でも蕎麦屋さんの看板に変体仮名で「きそば」と書いてあったりしますね(「ば」が「む」にしか見えないあれです)。変体仮名一覧が載っているサイトを見ながら解読していきましたが、何人かは、申し訳ありません、諦めました。
8世代をつなぐ1本の木
エクセルで家系図を作成し、六世の祖から自分の子まで、8世代をつなぐことができました。ずらっと並んだ先祖たちの名前を眺めながら、この中で自分といちばん似ている人、気が合う人は誰なんだろうと考えたりしました。その人とふたりきりで話をしてみたい。家系図には氏名と出生日・死亡日を記載しましたが、顔写真をそこに添えられたらどんなにいいだろうと思いました。
家系図は英語で「family tree」というそうですが、作成した家系図は上にいくほどどんどん横に広がっていき、本当に1本の大きな木のように見えます。10人の子を産んだ人、出まれてすぐに亡くなってしまった子、時代のわりに長寿だった人、戦争により異国の地で命を落とした人、いろんな人がその木を形作っていました。
どこかの葉が欠けていたら、どこかの枝が折れていたら、私はこの世に存在しない。月並みかもしれませんが、そんなことを身に染みて感じることができました。